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以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Linkrot」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

過小評価されている認知的美徳がある。それは「対象の永続性(object permanence)」、つまり以前に物事をどのように認識したかを継続的に記憶していることだ。ライリー・クインがしばしば思い出させてくれるように、左派は「対象の永続性」のイデオロギーだ。左派であるということは、CIAが一時的にトランプを苦しめている時でさえも、CIAを嫌い、信用しないことであり、あるいは、かつて労働者が自分の賃金で家族を養えていたことを覚えていることだ。

https://pluralistic.net/2023/10/27/six-sells/#youre-holding-it-wrong

問題は、対象の永続性が難しいということだ。光陰矢の如し。事実を覚えておくのは難しく、それらの事実がどの順番で起こったかを覚えておくのはさらに難しい。そして、その時にどう感じたかを覚えておくのはもっと難しい。

そこでブログの出番だ(少なくとも私にとっては)。1997年に、Science Fiction Ageの編集者スコット・エデルマンが、できたてのウェブから面白いリンクを10個ほど見繕って、雑誌のバックページにコラムを書いてくれないかと頼んできた。そのコラムは2000年の春まで続いた。2001年の初めには、マーク・フラウエンフェルダーからBoing Boingのゲスト編集を頼まれ、以来、私のウェブログのペースは毎日になった。Boing Boingではそれを19年以上続け、約54,000本の記事を書いた。2020年2月、私はブログ/ニュースレターの個人プロジェクト、Pluralistic.netを開始した。以来4年余りで、それぞれ1~12本の記事を含む約1,200編を書いてきた。

この巨大なコーパスには、私が注目に値すると考えたものすべてが詰め込まれていて、私にとって計り知れない価値がある。人前でメモを取るというのは、強力な規律だ。自分用に暗号めいたメモを残すのではなく、見知らぬ誰かのためにメモを公開する。メモを取ることに厳格さを課せば、そのメモは数年後の自分にはるかに有益なものとなる。

さらに、公開メモは強力な記憶術でもある。私のメモは、物語のアイデア、エッセイのアイデア、スピーチのアイデア、その他諸々の過飽和溶液のようなものを形成し、定期的にこれらの断片の2つ以上が凝集して核となり、溶液から完全な形の作品が結晶化する。

また、その断片すべてがデータベースのエントリでもある(Wordpressのバックエンドで複雑なクエリを実行できるようにしてある)という事実によって、忘却の彼方にあった事象の記憶を素早く確実に確認できる。必然的に、検索クエリによって、すっかり忘れていたネタが呼び起こされ、自家製スープストックをシチューに加えて豊かで複雑な風味を引き出すように、結果をさらに豊潤なものにする。さらに良いのは、これらの投稿の多くには、読者から補足の資料や強い反対意見の注釈が付けられている。

私はこれを「Memexメソッド」と呼んでいて、おかげで執筆が捗っている(ロックダウン中、慢性疼痛の不安から気をそらすために仕事に没頭し、9冊の本を書いた)。

https://pluralistic.net/2021/05/09/the-memex-method/

2013年には、Boing Boingで日刊の「This Day In Blogging History」を開始し、1年前、5年前、10年前のその日の記事アーカイブをまとめた。

https://boingboing.net/2013/06/24/this-day-in-blogging-history.html

Pluralisticでも、同じものを日刊のニュースレターにしている。ただ、今や20年前、15年前、10年前、5年前、1年前というラインナップだ。今日のはこちら。

https://pluralistic.net/2024/05/21/noway-back-machine/#retro

これはMemexメソッドを強力に補助してくれる。これまで考えてきたことすべてを、毎日5年単位で見直す構造化された手法だ。私はこれをパン生地づくりに例えている。乾燥してカサカサになっったパン生地の端を、真ん中に折り返す。こうした古い断片は自然と思考や理解から抜け落ちていくが、毎日数分ちょっとだけ注意を払うことで、その中心性を復活させられる。

この構造化された日々のレビューは、対象の永続性を維持する素晴らしい方法だ。時間の経過とともに自分の態度や信念を見直すことができるし、今日の自分にとっての中心的な問題が、どこから始まったものであるのかを思い出すのにもいい。私は昨日、自動車の修理する権利について考え始めたのが15年前だったことを思い出した。

https://www.eff.org/deeplinks/2009/05/right-repair-law-pro

我々がまだ修理する権利の問題で争っていることを考えると、これは重要な視点であり、あまり進歩していないと感じる最近の問題の時間的スケールを思い出させてくれる。

ワーナーの悪人CEOことデビッド・ザスラフが、税控除を得るために、期待されていた公開前のテレビ番組や映画を切り捨てたとき、我々は大いに怒りちらした。そしてマイケル・アイズナーがマイケル・ムーアの『華氏911』に同様のことをしでかした20年前に、我々はこの種の出来事に腹を立て始めたことがわかる。

https://www.nytimes.com/2004/05/05/us/disney-is-blocking-distribution-of-film-that-criticizes-bush.html

対象の永続性だけではない。古い記録への日々の探索は、リンクの切れたウェブを継続的かつ方体系的に探る方法でもある。過去5年間で、リンク切れが激増していることに気づいた。さらに、スパマーが亡くなった友人の以前のブログを乗っ取り、AIスパムファームに変えるという忌々しい手口にも気づいた。

https://www.wired.com/story/confessions-of-an-ai-clickbait-kingpin

ピュー・リサーチ・センターの優秀な人々が、リンク切れに関する詳細かつ定量的な研究を発表したばかりだ。それは、ウェブの衰退に関する私の最悪の疑念を確認し、そして上回るものだった。

https://www.pewresearch.org/data-labs/2024/05/17/when-online-content-disappears/

「オンラインコンテンツが消滅するとき(When Online Content Disappears)」というタイトルどおり、2013年のウェブの38%が今日消滅してしまっている。Wikipediaの参照は特に大きな打撃を受けており、ニュースリンクの23%、政府のウェブサイトの21%が消滅している。Wikipediaのほとんどの項目で、参照セクションに1つ以上のリンク切れがある。Twitterも大規模な忘却の穴だ。英語ツイートの5分の1は数ヶ月のうちに消え失せ、トルコ語・アラビア語ツイートでは40%に上る。

ありがたいことに、ウェブの記憶の穴を塞ぐ者もいる。2001年以来、Internet ArchiveのWayback Machineのおかげで、ウェブユーザはウェブページのキャプチャを閲覧でき、時間経過とともにどう変化していったかを追跡できる。私はWayback Machineの立ち上げパーティーに参加したが、その価値はすぐに理解できた。今日、私は「This Day In History」の投稿や、ウェブでデッドリンクを見つけたときに、Wayback Machineのキャプチャを大いに活用している。

Wayback Machineは2001年に公開されたが、Archiveの創設者であるブリュースター・ケールは1996年からウェブ・スクレイピングを開始している。今日の記事のアイキャッチ(1996年10月17日のYahooのホームページを改変したもの)は、Wayback Machine上で最も古いYahooのキャプチャだ。

https://web.archive.org/web/19960501000000*/yahoo.com

今度誰かが、どんな理由であれウェブスクレイピングを根絶すべきだと言い出したら、このストーリーを思い出してほしい。確かに、スクレイピングによって得た情報を悪用する方法はごまんとあって(Clearview AI)、そのような方法は禁止すべきだが、スクレイピング自体はとても良いものなのだ。

https://pluralistic.net/2023/09/17/how-to-think-about-scraping/

そしてInternet Archiveも素晴らしい。そのInternet Archiveは今、法的脅威に晒されている。ビッグ・ファイブの出版社とビッグ・スリーのレーベルが起こした訴訟が成功すれば、Internet Archiveを完全に消し去り、それとともに、我々が持つ唯一のはかないインターネットの記録であるWayback Machineも消え失せてしまう。

https://blog.archive.org/2024/04/19/internet-archive-stands-firm-on-library-digital-rights-in-final-brief-of-hachette-v-internet-archive-lawsuit/

図書館は燃える。Internet Archiveは、インターネットに関する我々の集合的な対象の永続性にとって、堅牢かつ恒久的なリポジトリに見えるかもしれない。だが、それは非常にもろく、あっという間に消え去ってしまうかもしれないのだ。

Pluralistic: Linkrot (21 May 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: May 21, 2024
Translation: heatwave_p2p

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