以下の文章は、openDemocracy の「How a war on porn is endangering US sex workers」という2023年1月11日に公開された記事を翻訳したものである。
今週、セックスワーカーを危険に晒しているとして非難される米国「人身売買防止法」の公聴会が開催される。
2018年に成立した「オンライン性的人身売買仲介防止法(FOSTA)」と「性的人身売買防止法(SESTA)」は、売春や性的人身売買を促進・助長するウェブサイトに責任を負わせるものとして喧伝されてきた。
だが、この法律が実際には人身売買を増やし、セックスワーカーと表現の自由を脅かしていると批判する声もある。
この法律では、ユーザが売春や性的人身売買について言及すると、それをホストするウェブサイトが訴えられ、サイトオーナーは最高25年の禁錮刑を科されるおそれがある。そのため、一部のプラットフォームではセックスワークに関連するすべてのコンテンツを禁止する措置が導入されている。
元セックスワーカーで人身売買の被害者でもあるジャスティス・リベラ氏は、この法律が「人々をより危険な形態の仕事、例えばフルサービスのセックスワークや路上での仕事に追いやっている」とopenDemocracyに語った。
基本的人権としての性的自由を擁護する団体「ウッドハル・フリーダム財団」は、2018年6月にFOSTA/SESTAをめぐって初めて連邦政府を提訴した。
同財団は、FOSTA/SESTAが言論の自由を保護する憲法修正第1条に違反すると主張した。しかし裁判所は数ヶ月後、ウッドハル財団とその共同原告であるヒューマン・ライツ・ウォッチと電子フロンティア財団は原告適格を有していないとして、訴えを却下した。
この決定は2020年1月に控訴裁判所で覆されたが、昨年3月、裁判所は政府に有利な判決を下した。ウッドハル財団は現在、上訴しており、控訴裁判所は1月11日にこの件を審理することになっている。
「インターネットからポルノを排除する」
FOSTA/SESTAの影響に関する2020年の調査によると、同法の導入以来、72.5%のセックスワーカーが経済に不安定に直面したという。
サンフランシスコでは、2018年に路上セックスワーカーの数が3倍に増え、人身売買事件も170%増加した。CBSは、この2つの急増を「連邦政府による売春斡旋サイトの閉鎖に関連している」としている。
セックスワーカーがこのような苦境に陥っているのは、かつて広告を出していたウェブサイト(Craigslist personalsなど)や、客の身元確認に使用していたウェブサイトが閉鎖されたためだ。
また2018年7月にはインディアナポリス警察が、ポン引きが使用していたサイトが閉鎖されたため、人身売買の被害者を発見しにくくなったことを認めている。
セックスワーカー団体は、FOSTA-SESTAが法律になるまでに、自分たちの意見を述べる機会を与えられなかったと主張している。
アダルト業界団体 Free Speech Coalitionのマイク・スタビル氏は「アダルト産業は政府と協力して、解決策を見出したいと考えている」とopenDemocracyに語った。
また法案を可決するにあたり、FOSTA/SESTAが違法ではなかった行為を遡及的に犯罪化することに「憲法上の重大な懸念がある」と指摘したスティーブン・E・ボイド司法次官補の書簡を議会は見逃した。ボイド氏はまた、この法律が人身売買業者の訴追を困難にすることも警告していた。
ウッドハル財団のローレンス・ウォルターズ弁護士は、この法案の支援者たちは「オンラインのアダルトエンターテインメント(訳注:性的な表現)が憲法で保護されていることは理解しており、それを(訳注:直接的に)検閲させるよう議会を説得することはできない」と理解していたのではないかという。
「しかし、そのようなコンテンツに(訳注:間接的に)関与するあらゆるものに巨額の罰則を設れば……効果的にインターネットからポルノを排除できるようになります」と彼は言う。
その結果、ウェブサイトがユーザの投稿内容に責任を負わないことを定めた「通信品位法(Communications Decency Act)」に抜け穴ができてしまった。ウォルターズ氏によると、これは表現の自由に萎縮効果をもたらし、ソーシャルメディア大手がセックスワーク関連のコンテンツをすべて禁止する動きにつながったという。
FOSTA/SESTAに基づく訴訟はこれまでほとんど行われておらず、有罪判決は1件のみだ。数千人のセックスワーカーが広告を出していたCityXGuideのオーナーは、サイト上で2人の10代の人身売買被害者が特定されたことを受け、11月に8年の禁錮刑と、1500万ドルの資産没収を命じられた。
また、Twitterも、「全米性的搾取告発センター(NCOSE:National Center on Sexual Exploitation)」と2人の10代の若者から提訴されている。共同原告は、Twitterが当初、13歳と14歳の性的動画の共有ツイートを削除しなかったと主張している。この訴訟はまだ決着していないが、Twitterは、日夜投稿されるツイートは膨大な数に上り、そのようなコンテンツを即座に削除するのは不可能であり、FOSTA/SESTAは「公然と悪意のある行為者」にのみ適用されると主張している。
ウッドハル財団のスタッフは、セックスワーカーの権利を議論しただけで、ウェブサイトがこの法律の対象になるのではないかと懸念している。
ミスリードなデータ
FOSTA/SESTAのロビー活動で最も影響力のあったのは、「Exodus Cry」とNCOSEの2団体だ。いずれも反中絶・反LGBTIQ団体とのつながりがある。
Exodus Cryはカリフォルニア州を拠点とするキリスト教系の非営利団体で、「性的人身売買の被害者の自由のために戦う」と主張し、オンラインポルノやストリップクラブなど、商業的性産業における搾取に反対するキャンペーンを展開している。
同団体は2008年にベンジャミン・ノロット氏によって設立された。ノロット氏は2013年に「中絶は主に無責任な娯楽的セックスの『解決策』を見出すためのものであり、『女性の権利』ではない」とツイートしている。また別のツイートでは、「同性婚が神と、神が意図した男女間の結婚に対する許し難い侮辱であるとの前提に基づき、私は同性婚に反対する」と述べている。
ノロット氏はその後、LGBTIQに関する見解が変わったして、次のように書いている。「以前は、性的マイノリティに対する婚姻禁止法の影響を十分に認識しておらず、そのために引き起こされた苦痛と危害を深く後悔している」
これまでExodus Cryのデータは信頼性に欠けることが明らかになっている。2012年には、米国では30万人の子供が人身売買の危険にさらされていると(誤って)主張し、また、売春に関与する少女の平均年齢は13~14歳だと主張していたが、これも否定されている。
これは珍しいことではない。人身売買に関するデータは、不正確だったり誇張されることが多い。たとえば共和党のアン・ワグナー下院議員は2015年、米国では人身売買が95億ドル規模の産業だと間違った主張をしている。2018年には、民主党のシーラ・ジャクソン・リー下院議員が、テキサス州には79,000人の性的人身売買の被害者がいると主張したが、その年に全米人身売買ホットラインがテキサス州で特定した事例は1,001件だったことを考えると、これも誇張された数字である可能性が高い。
FOSTA-SESTAを支持する団体のデータ収集に協力したジャスティス・リベラ氏は、一部の反人身売買団体が採用する手法には欠陥があるという(同氏はopenDemocracyに、団体名を明かさないよう求めた)。
「出会った人は誰でも、人身売買の被害者としてカウントされました。私が路上で見かけたというだけで、彼らがセックスワーカーか、ホームレスの若者かは関係ありませんでした」
「出会ったらチェックマークを付け、人身売買の被害者とする。そうすれば資金を得られるからです。これが現場の実態です」とリベラ氏は語った。リベラ氏は後にその団体を退職した。
こうした団体は潤沢な資金を得ている。Exodus Cryは、著名なキリスト教財団を含む複数の団体から寄付を含め、2021年には250万ドル以上の寄付を集めていたことが内国歳入庁への申告書から明らかになっている。また、11万7300ドルの政府助成金も受けている。同様に、NCOSEも昨年、20万4,392ドルの政府助成金を含む480万ドルを受け取っている。
かつて「Morality in Media」という名称で活動していたNCOSEは、Exodus Cry同様、搾取やポルノに反対する保守系非営利団体だ。VisaとMastercardに働きかけ、ポルノサイトPornHubのカード決済をブロックすることに成功した。
NCOSEによると、人身売買と合意に基づくセックスワークは同じだという。2017年の法廷助言書で、NCOSEは「売春に従事する者の大多数は性的人身売買の被害者に分類されるべきだ」と述べている。
NCOSEのリーダー、パトリック・A・トルーマン氏は、司法省の元わいせつ取締局長だ。トルーマン氏はまた、南部貧困法律センターに反LGBTIQヘイト団体に指定されている「American Family Association」や「Family Research Council」でも働いていた。
NCOSEのドーン・ホーキンスCEOは、ハンガリーでモルモン教会の布教活動をしていた経験から、ポルノとの戦いは「神からの召命」だと考えているという。また、同団体のロン・デハース理事長は、クリスチャン向けのポルノ監視ソフトウェア企業「Covenant Eyes」の社長兼共同創設者だ。もう一人の理事会メンバーの政治学者、ハドリー・アークス氏は、ゲイの転向療法は同性愛の不自然さを証明していると述べている。
NCOSEはopenDemocracyへのメールで、「人間の尊厳のための戦いに政治的・宗教的境界はなく、私たちは党派的でも宗派的でもありません」と述べる。また、「NCOSEは2010年に新しいリーダーシップの下に置かれ、LGBT+やその他のマイノリティグループへの憎悪に満ちた発言や行動を一切排除しています」とも付け加えた。
ポルノは政治的
台湾出身のアダルトパフォーマー、レオ・バイス氏は、コロナ禍でビデオゲーム業界の仕事を失い、本格的にポルノ制作を開始した。
2021年初め、PornHubはVisaとMasterCardの撤退により、プレミアム会員向けの主要クレジットカードの取り扱いを停止した。その結果、バイス氏は業界内の多くの人々と同様に、代替の発信メディアとして「OnlyFans」に活路を見出した。
バイス氏は、「確かに代わりにはなりましたが、OnlyFansの仕組み上、PornHubほどのリーチは得られませんでした」とopenDemocracyに語った。
やがて、OnlyFansもNCOSEのターゲットになった。NCOSEは司法省にOnlyFansへの措置を講じるよう求め、クレジットカード会社にサイトへの支払いを停止するよう圧力をかけた。
2021年8月10日、100人を超える連邦議会議員がメリック・ガーランド司法長官に書簡を送り、OnlyFansの調査を求めた。
10日後、OnlyFansはサイトから性的コンテンツを削除すると発表したが、大きな反発を受けて翌週にこの決定を撤回した。
「彼らがPornHubと同じ手法でOnlyFansを攻撃し始めた時、多くのパフォーマーが正面から立ち向かいました」とバイス氏は語る。批判者たちは「PornHubを邪悪な企業として描くことはできても、OnlyFansにはそうできなかった。なぜなら、(OnlyFansでは)私たちパフォーマーが人間性を持って扱われていたからです」。
Free Speech Coalitionのマイク・スタビル氏は、商業的性産業への攻撃に驚いていない。彼はこう説明する。「ポルノは本質的に政治的なものなのです……なぜなら、家族観、異性愛規範、ジェンダー観に対する私たちの考え方に挑戦するのですから」。
こうした団体の力は、影響力や資金力だけでなく、ポルノに付きまとう恥の意識にも由来すると彼は指摘する。
「議会で『ポルノは完全に問題のない娯楽だ』と言い切れる人はいません」とスタビル氏は説明する。「ジョー・バイデンが『ポルノを見るのは全然OKだ』なんて言うわけがない……そうして彼らは……扇動者たちに議論を完全にコントロールさせてしまうんです」。
反ポルノの戦いはポルノやセックスだけの問題ではない、とウッドハル・フリーダム財団共同創設者のリッチ・ジョイ・レビー代表は指摘する。セックスがターゲットになっているのは、それが攻撃しやすいからだという。
「この種の検閲が行われていけば、最終的に政府の発言だけが残ることになります。まさにファシズム国家です」とレビー氏は言う。
彼女とスタビル氏は、反ポルノ法、反トランスジェンダー法、書籍禁止法はすべて繋がっていると指摘する。NCOSEは過去に同団体の年次「Dirty Dozen(有害図書)」リストを通じて、EBSCO(学童向け教材データベース)とアメリカ図書館協会に子供たちが読める本を制限するよう求めていた。
すでにユタ州、テキサス州、フロリダ州の政治家たちは、彼らがポルノだと判断したLGBTIQ+関連の書籍を公立学校から排除している。また、議員たちは学校でトランスジェンダー・アイデンティティについて議論することをポルノと同一視してもいる(訳注:米国の学校図書館における文化戦争についてはこちらのTwitterスレッドで解説した)。
性に関する立法は米国だけの問題ではない。レビー氏は、婚外性交渉を犯罪化するインドネシアの新法についても言及した。「世界中を見渡しても、これはアダルトエンターテインメントだけの問題だとは言えません。私たちが自分の身体や個人の自律性を自分自身でコントロールできるかという問題なのです」と彼女は述べた。
バイス氏も同意する。「私たちの社会は、ポルノが倒錯的で恐ろしく、西洋社会を破壊するものとして描き続けています。では、サウジアラビアのようなポルノを制限している国々はどうでしょうか。その国では、人々は平等で自由なのでしょうか。ポルノをなくしても、人々が自由になるわけではないのです」。
Author: Hallie Lieberman / openDemocracy (CC BY-NC 4.0 DEED
)
Publication Date: January 11, 2023
Translation: heatwave_p2p
Header image: juno mac (CC BY-NC-ND 2.0 DEED)
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